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LIBELLA
LIBELLA IMAGE
・Weight:0.8 oz
・Type:Noisy
・Color:Anotogaster sieboldii
・Price:¥14,080 (tax in)
EPISODE

genuine record × NoisyNuts “LIBELLA”

今から遡る事14年前、私は”トップウォーター・フィッシング”の釣果について、大きな疑問を抱いていた。

釣りを始めて3ヶ月。あまりにも釣れない。
そんな私を哀れに思った釣具店のオヤジさんの一言は、「齋藤さんを例の場所へご案内しなさい」。若い店員に連れられて向かった先は秘境のような池だった。

面白いほどに釣れた。
いわゆるブルー•オーシャンだった(淡水だが)。

ところがその日以降、実に8年間もの間、私は1尾の魚をも手にする事ができなかったのである。

来る日もくる日も、毎日のように釣りに出かけているのに、一切釣れない。

気がつくと、トップウォーター用のルアーとタックルが溢れかえるように家中を埋め尽くし、ジョンボートまで買ってしまっていた。

そこまでしても、一向に釣れる気配がしない。

「なぜなんだ???」

釣れなさすぎて、 “トップウォーター”というフィッシングスタイルにこだわり続けている自分が滑稽に思えてくる。自分に呆れ果てた私は、しまいには「一匹釣れたら引退しよう」などと自虐気味に目標を立て、どうにか心折れぬよう持ち堪えているような始末であった。

そんな2015年の秋、衝撃的なルアーに出会う。スプラッター映画が大好きな私の誕生日に、友人が送ってくれたそのルアーは、いわゆる擬似エサ(ルアー)とは似ても似つかぬどころか、とんでもない形をしていた。

「なんじゃこりゃ!? ジェイソンみたいじゃないか!」

そう、それは見るからにジェイソン、映画「13日の金曜日」の主役ジェイソン•ボーヒーズの姿をしていた。
ホッケーマスクを被って犯行後の返り血を浴びた、あのジェイソンフェイスそのものがデザインされた、奇抜極まりないルアーなのであった。

「面白いルアーを作る人がいるもんだなあ!」

今にして思えば、私の心にド直球で刺さったこのルアーこそ、「釣りキチ三平」などの著書で有名な故 矢口高雄先生とのコラボにより2013年に発売された【genuine record】の平山真一氏による”作品”であり、その初代となる“プランチャー”という名の羽根モノだった。

私とほぼ同世代の平山氏が作った作品群はどれもこれも私の心を釘付けにする魅力に満ちあふれ、のちに平山氏ご本人をもってして「ご利用は計画的に」と言わせてしまうほどに大ファンと化すのに時間はかからなかった。

忘れもしない2016年のある日、私は【genuine record】“LIBELLA(リベラ)”のデッドストックを奇跡的に発見する。

何かに導かれるかのように即購入した“LIBELLA”をただ一つ携え、大雨の降るダム湖へと出艇した。

投げること数投。

突然「バッシャーン!!!!!!!!!!」という轟音と共に今まで味わった事の無い重みが竿に乗る。思い切り、地球に引っ張られているようだ。

8年も釣れずにいた人間にいきなり魚がヒットしたら、普通は頭が真っ白になって動揺しバラしてしまってもおかしくないシチュエーションであろう。
しかし、「8年の長きにわたり魚が釣れるシーン」を妄想し続けてきたその時の私は、まるでプロアングラーのように冷静なロッド捌きで魚をたぐり寄せ、その手におさめる事に成功したのだった。

この日以来、“トップウォーター・フィッシング”に対する私の疑問は見事に払拭され、むしろ価値観もろとも180度転換する。

トップ=釣れない(×) から トップ=デカイ魚が釣れる(○)

という紛れなき確信だ。

道具としてのルアーと自分自身。”好き”なものを”信じる”という思考は、時に恐ろしい程のエネルギーを生み出し、想像を超えたさまざまな現象を生んでゆく。この思いは、6年後に起きるルアーレーベル“NoisyNuts”立ち上げの原点となる。

歴史的なキャッチの後、私の“LIBELLA”に対する信頼感は止まる事なく増していった。
いつも“LIBELLA”だけをルアーケースに入れ、連日連夜さまざまな水辺へと出かけては多くのランカーサイズを仕留めてきた。

私を8年間のボウズ地獄から救ってくれた“LIBELLA”。
気がつけば、所有しているルアーの大半が“LIBELLA”になっていた。

「いつか、平山さんと何かできたらいいな」

漠然とそんな事を考え続けてきた。

2022年。

ふと猛烈に平山さんに会いたい気持ちを抑えられなくなり、気がついたら連絡していた。

私「いまから関西方面に向かいますので、工房にお邪魔しても良いですか?」
平山氏「業者の納品があるので、その時間意外なら居ますよ」

なんだろう、このスムーズ過ぎる流れは!?

工房へ向かう車中で、私は軽くパニックになっていた。
自分の人生を変えた「神」に会えるのだ。

彼のものづくりの本質を体現するかのように、几帳面に整頓されたギャラリーのような工房に謹んで足を踏み入れる。言うなれば、結婚前に彼女の父上にご挨拶をするかのような極度の緊張と不安に包まれた私は、いきなり本題を切り出した………………。

私「平山さん!NoisyNutsの“LIBELLA”を作ってください!」
平山氏「良いですよ!カラーと仕様を決めましょうね!」

腰が抜けた。

平山氏は私の情熱をまっすぐに受け止めてくれた。

そうと決まれば、堰を切ったように質問攻めだ。
プロレスが大好きな平山氏は、受け身もプロ級だった。

平山氏「バスって、ボケで喰ってくるんですよ」
私「今、なんと?」

平山氏「いやね、バスってスクール(数尾で群れをなして泳ぐこと)してるでしょ?
でね、その中の一尾が『こんな餌に似てないもん食うたら笑いとれるやろな?』ってバイトしてくるんですよ。そしてみごと釣られたらそいつはヒーローですよw」

平山さんにまんまと釣られた魚のような気分になった私は、胸の中が喜びで満ちあふれてゆくのを感じながら帰途についた。

“LIBELLA”の最大の魅力は、その複雑で洗練されたデザインはもちろん、ヘッドとは対照的に造形された細いシェープのボディーから生まれる小気味良い腰振りアクションだ。

俗に言う羽根モノと呼ばれるこのルアーのウィングは、これまでロングとショートの2タイプが存在している。NoisyNuts“LIBELLA”には、よりスローリトリーブで水噛みが良いショートを採用していただいた。さらに平山さんへのスペシャルリクエストであり、文字通り目玉となるのが、腹部に特別に埋め込まれた、魚だけから見える”第三の目”。もちろん、ボディのカラーリングもNoisyNutsオリジナルに染めあげてもらった。

平山氏は言う。
「木で作られたハンドメイドルアーは、1つとして同じものが無いんです。同じ形のルアーでも、アクションからなにから全く同じと言う事はない。生き物みたいなもんですよ。」

面白すぎる。

木は部位や採れた時期によって水分の量も違うし、木目によっても塗装によっても、ルアーの動きは変わるのだという。

私は、それまで爆釣シーンの数々を共にしたのち、今やボロボロになってしまった【genuine record】“LIBELLA”をすかさず差し出す。平山氏はそれを手に取ってほくそ笑みながら、そっと治療してくれた。

text: Hisashi Saito